革の構造を知る──表皮から真皮まで、その奥深い世界

私たちの身の回りには、財布、バッグ、靴、ジャケットなど、多くの「革製品」があります。その手触り、風合い、そして使い込むほどに増す味わいは、革ならではの魅力です。しかし、その「革」がどのような構造を持ち、なぜ美しく丈夫であるのかをご存じでしょうか?

革はただの「動物の皮」ではありません。科学的にも美術的にも精緻に成り立つ、驚くほど複雑な素材です。ここでは、革の成り立ちを根本から解説し、「表皮」「真皮」「皮下組織」といった構造の違いや役割、そしてそれが革の品質や種類にどのように関係しているのかを、深掘りしていきます。


1. 革の始まりは「皮」から

まず基本として理解しておきたいのは、「皮」と「革」の違いです。

  • 皮(Skin/Hide):動物から剥いだままの状態。生の状態で腐敗しやすく、保存も加工もできません。

  • 革(Leather):皮を腐らないように「なめし加工(Tanning)」し、製品として使えるようにした状態。

つまり、革は「皮」を加工して初めて生まれる“素材”です。この加工を施すことで、私たちは強く、美しく、長く使える革製品を手にすることができるのです。

しかし、この加工の前段階である「皮」そのものがどうなっているかを知ることで、革の特性をより深く理解できます。


2. 皮膚の基本構造 ―― 表皮・真皮・皮下組織

哺乳類の皮膚(つまり人間を含む動物の皮膚)は、主に3つの層から構成されています。

● 表皮(Epidermis)

皮膚の一番外側にあり、厚さは動物種によって異なりますが、非常に薄い層です。主な構成はケラチン(角質)で、外部からの刺激や水分の蒸発を防ぐバリア機能があります。

しかし、革として使用する際には、この表皮はほとんどの場合取り除かれます。なぜなら、表皮は硬くて加工に向かず、毛根や角質層があるため、滑らかな仕上がりになりにくいからです。

ただし、エキゾチックレザーや一部の型押し革では、あえて表皮に近い質感や模様を活かすこともあります。

● 真皮(Dermis)

革の中心的な構造で、革としての主要素材となる部分です。厚さもあり、繊維構造が緻密かつ強靭です。

真皮は主にコラーゲン繊維で構成され、革の「強さ」「柔軟性」「通気性」「吸湿性」「耐久性」などのすべてを担っています。

さらに真皮は2層に分けられます:

  • 乳頭層(Papillary layer):真皮の上部。繊維が比較的細かく、しなやかで表情豊か。銀面(トップグレイン)に近い部分。

  • 網状層(Reticular layer):真皮の下部。繊維が太く密集し、革の「コシ」や「厚み」に影響。しっかりとした強度が求められる部分。

この真皮の状態や厚み、繊維の密度が革のランクや価格を大きく左右するポイントとなります。

● 皮下組織(Subcutaneous tissue)

真皮の下に位置し、脂肪や結合組織などで構成される部分です。動物の種類によっては脂肪が厚い場合もありますが、革として使用することはありません

皮下組織はなめし前に「フレッシング」という工程で除去されます。この処理が甘いと、なめしや染色がうまくいかず、革にムラや劣化を引き起こします。


3. 革になるまで ―― 表皮を取り除き、真皮を活かす技術

革づくりの工程では、前述の「表皮」と「皮下組織」を除去し、真皮のみを抽出して使用します。この中心層こそが、私たちが「革」として手に取る部分です。

● 銀面(Top Grain)

真皮の中でも、表皮に近い乳頭層にあたる部分。繊維が細かく、美しい表情が出るため、高級革製品に多用されます。牛革では「フルグレインレザー(Full Grain)」として知られています。

この層はシワや血筋、キズなどの自然な模様が残りやすく、「ナチュラルマーク」として魅力とされることもあります。

● 床面(Split)

真皮をさらにスプリット(分割)して、下層の網状層だけを使った革です。繊維が粗く、銀面のような美しさはないものの、価格が抑えられ、耐久性もあるため、裏地や安価な製品に使用されます。

また、この床面にポリウレタンフィルムを貼ることで「PUレザー」や「バインダーレザー」といった人工的な仕上げも行われます。


4. 動物種によって異なる真皮の性質

同じ構造を持っていても、動物種によって真皮の性質は大きく異なります。以下は代表的な革種とその真皮の特徴です。

動物種 真皮の特徴 用途例
牛(カウ) 繊維が密で丈夫、しなやか バッグ、財布、シューズなど万能
馬(コードバン) 特殊な真皮「コードバン層」がある 高級財布、靴など
山羊(ゴート) 軽量で柔らかいが強靭 手袋、小物
羊(ラム) 非常に柔らかく、しっとり ジャケット、衣料向け
ワニ(クロコ) 真皮に模様のスケールがあり高級 バッグ、財布、時計ベルトなど
トカゲ(リザード) 繊細な鱗模様と高密度の真皮 小型革小物、高級財布
サメ(シャーク) 凹凸のある表皮と繊維が強靭 バッグ、財布
象(エレファント) 厚くて堅牢、個性的な表情 限定革製品

mode a laise

5. 革の品質は「真皮の密度と構造」で決まる

革の善し悪しを決める最大の要素は、「真皮の繊維構造」と「密度」です。これにより以下のような違いが出てきます。

  • 繊維が密 → 高耐久・経年変化が美しい・高価

  • 繊維が粗い → シワになりやすい・加工しやすい・安価

さらに、「どの層の真皮を使用しているか」もポイントです。フルグレイン(銀面)か、スプリット(床面)かによって、光沢・強度・見た目・価格が大きく変わります。


6. 革製品を選ぶときの「構造」の見極め方

革の構造を理解すると、製品を選ぶ目も養われてきます。

見分けのヒント:

  • 表面に自然なシボ(シワ模様)がある → 銀面である可能性が高い

  • 型押しされたような均一な模様 → 床革やPUレザーの可能性あり

  • 革の裏面がざらついている → 床革かスプリットレザー

  • 軽くてやわらかすぎるのに高価格 → 本革かどうか再確認を


7. まとめ ―― 真皮を知ることは、革を知ること

私たちが手に取る「革」は、動物の皮の中でもほんの一部、真皮層だけを厳選して加工した、極めて希少な素材です。

表皮や皮下組織を取り除き、真皮の繊維構造を生かすことによって、丈夫で美しく、経年変化を楽しめる革が完成します。そして、その真皮層のどの部分を使うか、どんな動物か、なめしや仕上げがどうか――それらの要素が複雑に絡み合い、一つ一つの革製品の個性を形づくっているのです。

だからこそ、革製品を選ぶときには、表面のデザインや価格だけでなく、「革の構造」にも目を向けてみてください。それが本当に価値ある一品との出会いに、きっとつながっていくはずです。


関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

TOP
ONLINE SHOP ACCESS お問い合わせ 公式LINE Instagram